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森林環境税の不可解

森林環境税と森林環境譲与税

日本の国土面積約3780万haのうち森林面積は約2500万haとされ、さらにそのうちの約1000万haが木材資源として植林された人工林だということです。

 戦中戦後の過度な伐採によって荒廃した山に国を挙げて木が植えられた結果として、1966年から2017年までの半世紀で人工林資源の蓄積は約6倍に拡大したとされています。

 その中でも、本格的な利用期を迎える1970年以前に植林した木が全体の50%を占めると言われており、植林後50年を経て本来であれば伐採の時期に来ている人工林が(国産材の需要の低迷などから)放置されている状況が続いているということです。

 こうした手入れが行き届いていない森林を整備するため、今年の3月27日、「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律案」が3月27日の参院本会議で可決、成立しました。

 この法律では、「森林環境税」として5年度の2024年度から個人住民税に上乗せして1人当たり1000円を徴収する一方で、2019年度から「森林環境譲与税」として私有林の面積や人口、林業就業者数などに応じて国内の都道府県や市町村に森林整備や国産材の利用促進のための財源として交付されることになっています。

 消費税の税率アップの議論の影でほとんど話題になることもなく成立してしまったこの新税ですが、(よく考えれば)まずは特別会計で借金をして自治体に配った上で、5年後の2024年に森林環境税が創設されて以降の税収で借金を返すというのもずいぶんと調子のいい話のように聞こえます。

 また、その多くが個人資産である人工林の整備や木材資源などに巨額の税金をつぎ込むことになるわけですから、市場に対し健全な成長を妨げるよくない影響をに与える可能性もないとは言えません。

 ともあれ、(そうは言っても)そうした建付けで法律ができてしまった以上、それが目的に沿った形でうまく使われるための方法をしっかり考えていく必要がありそうです。

 4月25日のYahoo newsにおいて森林ジャーナリストの田中淳夫氏が、この森林環境税・環境譲与税について「林業振興の金が都市にばらまかれる不可解」と題する論考を掲載しているので紹介しておきたいと思います。

 前述のように、森林環境税は個人から1人あたり年間1000円を課し市町村が個人住民税と併せて徴収する税金です。個人住民税の納税義務者は全国で約6200万人ですから、税収総額としては概ね600億円が見込まれる計算です。

 その使徒(使い道)には「林業振興と森林環境の健全化のため」という縛りがあり、都道府県が2割(徐々に減らされ33年度には1割になる)、市町村8割の譲与比率で配分されるということです。 

 では、市町村へ配分する金額は具体的にどのように決められるのか。

 田中氏の説明では、配分額は50%が「私有林人工林面積」、20%が「林業就業者数」、30%が「人口」の比率になっていて、それを各自治体の状況に当てはめていくのだそうです。

 配分金額について桃山学院大学の吉弘憲介准教授が試算したところでは、もっとも大きかったのは横浜市で2019~21年度は約1億4068万円。続いで浜松市が約1億2,000万円、さらに大阪市、和歌山県田辺市、静岡市と続いているということです。

 森林面積が決して多いとも思えない横浜市がなぜトップなのかと言えば、それは同市の人口約372万人が関係しているから。(大阪市の場合もそうですが)人工林や林業就業者がほとんどゼロであっても、政令市などで人口規模が大きければ配分率への影響はその他の条件を凌ぐ形で現れると氏は説明しています。

 例えば、配分額のトップ100位を見ても、名古屋市(8位)、川崎市(21位)、さいたま市(31位)、東京都世田谷区(63位)、大阪府堺市(84位)などでは林業関係予算はゼロ、1円も計上されていないということです。

 これらの自治体は、林業を行っていない。森林環境、とくに苦境にある林業の建て直しに使うからという理由で増税したのに、都会に手厚い森林環境譲与税が配分されるのはおかしくはないか…田中氏がそうした疑問を抱くのも確かに当然かもしれません。

 さらに、よく見ていくと、林業地と言える山村は軒並み数百万円程度。天然林や里山の雑木林などはカウントされないから、森林面積が広くても金額は伸びていないと氏は指摘しています。

 使い道が実質的に林業に限られている税金なのに、そうした地域ではどうすればよいのか。この譲与税は公園緑地とか街路樹の財源にも使えないということです。 

 因みに、東京23区は(当然に)林業ゼロ地域ですが、全部で約3億5000万円の財源が下りてくる。そのため港区では、この財源を木材生産地の市町村と連携して木質化アドバイザーを新たに設け開発事業者に内外装に木材活用を指導する事業に、千代田区、中央区、新宿区、中野区、板橋区では他の自治体の森林整備に充てるとしているそうです。

 そうした現実を見るにつけ、この税金はスタート前にほとんど破綻しているのではないかというのが、今回の森林環境税・同譲与税に関する田中氏の見解です。 

 各住民の所得を無視して住民税均等割に上乗せする(人頭)課税というのは、国税として不可解に過ぎる。それが可能なら、そのうち国防費とか社会福祉費用などを名目に定額の徴税が行われかねないと氏は言います。

 しかも目的税っぽく徴収しつつ、その実、譲与税方式で使い道は自分で考えろとばかりに市町村にばら撒くというのも理屈が合わない。明らかに新税による増税なのに、住民税の上乗せの形で徴収して見えにくくしていることも不誠実で嫌らしさを感じるということです。

 結局、見えなければ取りやすいとでも考えたのか。野党も「森林のためなら」とほとんど反対しなかったと田中氏はこの論考に記しています。

 そう考えると、今の時期に突然現れた森林環境税や森林環境譲与贈与税には、何やら省庁間の権限・財源争いや業界を巻き込んだ政治の匂いも漂って来ようというものです。

 こうした状況に対し、「もっと真摯に税金と使途に向き合うべきだ」とこの論考を結ぶ田中氏の指摘を、私も大変興味深く受け止めたところです。



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